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No. 21|考えない人々

  • Four Ring Newsletter
  • 2016年12月28日

1、思考力停止装置

誰とは言わないが、僕の周りに「思考力ゼロ人間」が急速に増殖しつつある。
この人の1週間を可能な限り、観察したことがある。Wikipedia(ウィッキ)で知識を集め、ニュースはYahooに依存し、自分の現在地と行先は、Googleで確認する。それが全てである。この3つがあれば、この人間は、全てができる。なければ何もできない。考えることがあるとすれば、「ウィッキ」に入力するキーワードの選択程度である。この人々が発する気の利いた発言は、ほとんど、twitter上に散乱する、気分の悪くなるような無数のコメントの総和の平均であり、扇動的なアジテーションであり、あるいは、Wikiに書かれている要領の良いサマリーである。
 恐ろしい想定であるが、ネットがシャットアウトされた空間では、この人々は、一歩も動くことができず、加えて、一切の思考を展開することができないことになるに違いない。あまり良い言葉ではないが、「バカ」という言葉がある。「バカ」の定義が、「考えない人」とすれば、ネットに依存した人間は、間違いなく、考えることが停止し、やがて、考えることを忘れ、本物の「バカ」になるに違いない。


2、人工知能

昨年の学会で、「ワトソン」の開発に携わったIBMの技術責任者を招待講演者としてお招きした。今にして思えば、わずか1年前であるが、当時は、「ワトソン」を臨床導入することなど先の先と思っていた。しかし、現実には、すでに、東大病院にワトソンが導入され、わが北大でも遅ればせながら、ワトソンの価格調査を開始している
*。このスピードには驚愕すべきものがある。
 各種ゲーム(囲碁、将棋、オセロ)などで、人工知能が人間のゲーム能力を上回ることが次々と立証されてきた。これは、驚くには当たらない。ゲームのために開発された人工知能は、膨大数の人智の集合体の結集である。集合知が、単独知を凌駕することは、誰が考えても明らかである。これまでは、それが膨大過ぎて、時間がタイムアウトしてしまうとか、あるいは、「決断」の段階で、最善手を発見できないことが問題であった。これをディープラーニングが克服しつつある。
 昨年の脳外科総会で、羽生善治名人にお願いして「決断力を高める」という素晴らしい講演を頂いた。余人はともかく、座長であった僕は、本当に、僕の人生で無数に聞いてきた「講演」の中でも、最も全身全霊を傾けて、羽生名人の講演を聞いた。
 今、ワトソンの導入を考えている自分を自省して思う。人類の叡智の代表である羽生名人の思考方法を人口知能が獲得しつつある。ゲームから始まった知的作業を人口知能が凌駕するという大きな潮流は止めようもなく、私たち医療者の仕事の大部分が、間違いなく、人工知能によって占拠される日は近い。人の医師は、しばしばエラーをする低級な様々な顔をした機械に過ぎないという自虐に苛まれるようになるかもしれない。
 WikiとYahooとGoogleを三種の神器とする今世紀の「バカ」を愚弄している私たち。
しかし、実は、そのバカにさえ、取り残される知的階級の悪夢を見る。


3、バカの増殖と衆愚・ポピュリズム

少し、視点は異なるが、「民主主義」は、集合知が、個別知より、優れた判断をすることを前提として成立している。「みんなで考え、議論した結果」は、少数の個別知の出す結果を必ず上回り、公益に資することをアプリオリに認めている。ならば、政策決定、あるいは、政治的判断、外交的判断に、人工知能を導入すれば、投票率の低い崩壊寸前の「民主主義」より、遥かに優れた結論を導き出すことは自明である。
最近の直接民主主義という集合知がもたらしたポピュリズムの選挙結果を見て、暗澹ある気持ちになる。民主主義という集合知の栄光を教育され、信奉してきた私たちは、今、その崩壊を目撃しているのかもしれない。ここは、むしろ、「最上の個別知」
すなわち仁徳に支えられた独裁か、あるいは、究極の集合知である人工知能に政権をゆだねた方が、賢明な選択かもしれない。
 しかし、人間は負け戦と分かっていても、最後まで戦う、素晴らしい愚かさを持っている。義理と人情を秤にかけりゃ、「義理」が重たいのだ・・・。民主主義は、
戦後一貫して、私たちや私たちの先人が、金科玉条としてきた「義理」(論理あるいは信条と置き換えてもいい)である。
 私たち以外に、誰が民主主義と言う名の「義理」と殉教してくれるのだろう。人口知能が導入されても、僕は、人間の集合知が持つ無限の可能性を捨てるつもりは全く
ない。

*ワトソンは廉価版も登場しており、1億円から2千万円程度で購入できる。ただ、データはワトソン側(IBM)に蓄積するのではないかと思われます。

 

watson