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基礎研究

人工酸素運搬体による急性期脳虚血に対する脳保護療法
人工酸素運搬体は一般に粒径が赤血球より小さいことから、微小血管において良好に灌流し、脳虚血時には有効に作用するものと考えられます。近年、臨床応用の可能性が高い人工酸素運搬体として蛋白質クラスター型のヘモグロビン製剤であるHemoAct(図参照)が注目を集めています。我々はこのHemoActを用いて、急性期脳虚血における脳保護効果を検討しています(製剤開発した中央大学理工学部 小松研究室との共同研究)。ラットの一過性中大脳動脈閉塞モデルの検討では、HemoActを投与することにより、梗塞縮小効果(図参照)と微小血管での良好な灌流を認めました。今後、種々な脳虚血条件下での治療効果の検討をしていく予定でいます。

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局所脳冷却灌流による急性期脳虚血に対する脳保護療法
低体温療法は古くから脳保護効果があることが知られていますが、我々は局所選択的に脳を血管内から冷却するという脳保護療法の開発をしています。ラット中大脳動脈閉塞モデルを用いて、患側内頚動脈から冷却生理食塩水を投与し、梗塞体積が1/3まで縮小することを明らかにしました(図参照)。電顕での検討では虚血再灌流傷害時に見られるastrocyte end-footの膨化による微小血管の圧排狭小化が抑制され(図参照)、微小循環が改善していました。本治療は完全再開通だけではなく、主幹動脈閉塞が残存する虚血モデルでも脳保護効果を発揮しました。現在、この研究成果を受けて、臨床でCOOL IVR studyを企画しており、臨床応用の可能性を検討しています。
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スフィンゴリン脂質による脳虚血再灌流傷害に対する脳保護療法
細胞膜の脂質二重層を構成するリン脂質の主な働きは水分子などの移動を制限することであるというのが従来の通説でしたが、近年、このリン脂質が、細胞内外のシグナル伝達に関与していることがわかってきました。特にスフィンゴリン脂質(既に医薬品として製品化されています。フィンゴリモド)は細胞保護作用を強く持っていて、脳の保護効果が期待できます(図参照)。本研究では脳梗塞の後遺症を軽くするためにリン脂質の果たす役割を解明し、臨床応用につなげていくことを目的としています。
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中枢神経疾患に対する骨髄間質細胞再生治療の開発
中枢神経疾患では、しばしば重篤な後遺症が生じます。種々の新規治療法が開発されつつありますが、中枢神経系では再生能力が限定的であるため、その治療効果は不十分です。近年、再生医療研究が急速に進歩しており、中枢神経疾患に対する骨髄間質細胞移植治療が期待されています。我々は動物モデルを用いて、神経学、組織学、分子生物学及びMRI、PET(図参照)など神経放射線学的に、細胞培養や移植の安全性・有効性、細胞移植方式、移植された細胞の追跡、治療効果など様々な検討を通じ、細胞治療の開発を行ってきました。これらの研究結果に基づき、臨床応用の展開を目指しています。
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もやもや病iPS 由来細胞を用いた病態発生メカニズムの解明
RNF213遺伝子はもやもや病の疾患関連遺伝子として近年注目されています。我々はこの遺伝子変異を持つもやもや病患者の末梢血単核球よりiPS細胞を樹立することに成功しました。このiPS細胞より分化誘導した血管内皮細胞において、接着分子インテグリンの発現が低下していました(図参照)。今後、このiPS由来血管内皮細胞を用いて、インテグリン機能に関わる細胞接着、シェアストレス応答等の変化を検討していく予定です。また血管平滑筋細胞を誘導することも試みており、これらの検討から、もやもや病の病態発生メカニズムを解明したいと考えています。
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もやもや病の新規バイオマーカー探索
もやもや病の発症機序、病態には未だ不明な点が多く、疾患の本態がどこにあるのかも判明していません。発症には遺伝的素因の他に、何らかの環境因子も関与 すると考えられています。現在、われわれは院内バイオバンクと連携し、血液などの生体試料を収集しています。付随する詳細な臨床情報から、それらを層別化 し、ゲノム・エピゲノムを包括的に解析することで、病態解明、新しい診断や予後予測の指標となるバイオマーカーの探索を進めています。

 

ソフトマターを用いた新たな塞栓物質の開発 
脳血管内治療は使用する道具が進歩することにより、その治療を根本的に変える可能性が期待される領域です。我々はソフトマターテクノロジーを用いて(北海道大学 先端生命科学研究院 ソフト&ウェットマター研究室 黒川孝幸先生との共同研究)、新たな塞栓物質に取り組んでいます(図参照)。塞栓物質は脳腫瘍などの異常血管を閉塞するための物質ですが、これまでの塞栓物質はレントゲンに見えないため、造影剤などを混ぜて注入していました。もし塞栓物質自体がレントゲンで見えると効果的かつ安全に治療ができることが期待されます。この研究により、レントゲンで見える塞栓物質が開発できれば、血管塞栓術の新たな世界が開けると考えられます。
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膠芽腫に対する新規治療法、音響力学療法の開発
脳腫瘍の代表である膠芽腫は未だに非常に治療が難しい疾患です。従来の手術、放射線治療、化学療法とは異なる新規治療が求められています。当教室では従来より光触媒を使用した光線力学療法の研究を進めてきましたが(図参照)、現在はその発展形といえる超音波を利用した音響力学療法の研究を進めています。光に比べて組織深達度が極めて深い超音波は、手術で切除不能な悪性脳腫瘍に対する有望な治療法となる可能性があります。超音波照射装置の改良も目覚ましく発展しているため、この分野と連携して研究を進めています。
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神経膠腫の遺伝子情報に基づいた分子分類
脳腫瘍の遺伝子解析が進み、多くの腫瘍発生原因となる遺伝子異常が発見されてきています。当教室では、患者さんから摘出した脳腫瘍を凍結検体として多数保存してきました。この保存検体を使用して遺伝子解析を行い(図参照)、分子分類として新たな枠組みを構築し、さらに詳細な臨床情報と合わせて解析することで、新たな知見の発見を目指しています。
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iPS細胞を用いた疾患特異的腫瘍モデルの確立
iPS細胞とは様々な組織や臓器の細胞に分化する能力を持つ細胞として注目されていますが、当教室では特定の遺伝子疾患で治療を行っている患者さんに協力していただき、この遺伝子疾患特異的なiPS細胞の樹立を行いました(図参照)。このiPS細胞を腫瘍細胞に分化させることで、これまで有効な治療法がなかった遺伝疾患に対する新規治療の確立を目指す研究を進めています。
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脊髄癒着性クモ膜炎に対する内科的治療法の確立
脊髄癒着性クモ膜炎はクモ膜・軟膜組織に慢性炎症性変化をきたし、進行性に神経症状が悪化する病気です。脊髄損傷や脊髄腫瘍の摘出後など様々な要因で起こります。現在まで各種薬物療法や外科的治療が試みられてきましたが、確立された治療法はなく、脊髄疾患の中でもきわめて治療困難な疾患です。我々は外傷性脊髄癒着性クモ膜炎動物モデルを用いて(図参照)、脊髄癒着性クモ膜炎の病態を解明し、さらに骨髄間質細胞の神経保護および抗炎症作用を用いた治療法の確立を目指しています。
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